【研究会レポート】偏差値から“経験値”へ。教育インフルエンサー・ knockout が語る、「地域留学」としての地方校の新たな勝機

2026/2/11

  • セミナーレポート

2025年11月26日、株式会社NextTeachers COO 渡辺が代表を務める、一般社団法人 学校広報WEB・SNS研究会は、「地方校におけるチャンス」をテーマにオンライン研究会を開催しました。

少子化が加速する中、多くの地方校が生徒募集に苦慮しています。

しかし一方で、首都圏などの都市部では、偏差値偏重の競争や画一的な教育環境に疑問を抱き、あえて「地方」というフィールドに教育的価値を見出す保護者層が急増しています。

本研究会では、教育系インフルエンサーとして3万人以上のフォロワーを持ち、保護者のリアルな声を日々発信し続けているknockout(宮本一嘉)氏に登壇していただきました 。同氏は、教育インフルエンサーとしてのマクロな視点と、実際に多様な進路を選択させてきた保護者としてのミクロな視点の双方から、

なぜ今「地域留学」が熱いのか、そして選ばれる学校になるためには何が必要なのかを語りました。本レポートでは、宮本氏の講演内容に基づき、現代の教育トレンドと地方校の勝ち筋を体系的に解説します。

登壇者紹介

knockout 宮本一嘉 氏  教育系インフルエンサー / フリーランス

「knockout(ノックアウト)」の名義で活動。従来の偏差値やランキングに依存しない「新しい教育実践」や「国際教育」「教育改革」を中心に情報発信を行い、X(旧Twitter)のフォロワー数は3万2000人超、音声プラットフォームVoicyでもパーソナリティを務めています。

【主な経歴・公職】

  • 元・国立大学附属小学校(お茶の水女子大学附属小学校)PTA会長

  • 全国国立大学附属学校PTA連合会 元評議員

  • 東京都文京区 教育・子育て審議会 委員

  • 文部科学省委託事業(WWLコンソーシアム連絡協議会および全国高校生フォーラム)運営協力

  • 教育メディア「朝日新聞EduA」連載企画対談、国際教育フェア登壇など多数

また、宮本氏は13年間の専業主夫を経てフリーランスとして独立 。3人の子供の父でもあり、長男はイギリスの大学へ留学、次男は国立高等専門学校(高専)に在学中、そして長女は現在、地方高校への進学を第一志望として受験活動を行うなど、偏差値にとらわれない多様な教育パスを実践しています 。また、国際ロボットコンテストの日本代表アウトリーチ活動や、科学技術館でのワークショップアドバイザーなど、STEAM教育分野での支援活動も積極的に行っています。

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knockout(宮本一嘉)の活動メディア

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Voicy
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ニュースレター「教育の明日をよむ」
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教育界の地殻変動と「地域留学」の必然性

宮本氏はまず、教育インフルエンサーとしての活動を通じ、ここ数年で教育現場に起きている「3つの大きな潮流」を提示しました。

  1. 国際教育の過熱: 2020年の学習指導要領改訂に伴い、首都圏を中心に早期英語教育や海外進学・留学への関心が急速に高まっています。

  2. 通信制教育の積極的選択: 不登校生徒の受け皿としての機能に加え、近年では「時間を自由にデザインしたい」「スポーツや専門分野に打ち込みたい」という理由から、通信制高校を“積極的”に選択する層が増加しています。

  3. 地域留学(地域みらい留学): かつてはニッチな選択肢でしたが、現在、保護者の意識変容に伴い大きなうねりとなっています。

本研究会では、特にこの「地域留学」に焦点を当て、なぜ今、首都圏の保護者が地方の学校に目を向けているのか、その背景にある論理的構造が解説されました。

データが示す「地域留学」の急伸

「地域留学」への関心の高まりは、具体的な数値として表れています。

宮本氏は、国を挙げて推進されているプロジェクト「地域みらい留学」のデータを引用し、その急成長ぶりを示しました。

  • 参加校の増加: プロジェクト開始当初(2019年頃)は20〜30校程度だった参加校が、現在は173校まで拡大。

  • 留学者数の急増: 当初は年間210名程度だった留学者数が、今年度は新1年生だけで約950名に到達。コロナ禍であっても右肩上がりで成長しており、1校あたり平均5〜6名の県外生が入学。

  • 早期化する情報収集: 東京で開催された「高校進学フェア」には、6月開催で765組、8月開催で880組(家族単位)が来場。6月開催の参加者は約4割が中学1・2年生。

これらのデータは、地域留学が一過性のブームではなく、受験生・保護者にとって「現実的な進路の選択肢」として定着しつつあることを示唆しています。

なぜ今、地方なのか? 保護者を動かす「4つの論理」

では、なぜ都市部の保護者は地方を選ぶのでしょうか。

宮本氏は、自身の保護者としての感覚も交え、そこには明確な4つのドライバー(推進要因)が存在すると分析します。

① 費用対効果(コストパフォーマンス)の高さ

第一に挙げられるのが経済的なメリットです。

公立高校の地域留学の場合、住居費や食費を含めても月額1万円〜6万円程度で生活が可能です。これは、今年度から公立高校の授業料が実質無償化されたため、保護者の負担が生活費のみに限定されることが大きく寄与しています。

さらに、2026年度からは私立高校の授業料も所得制限撤廃の形で実質無償化される見込みであり、今後は私立高校にとっても大きなチャンスが到来すると予測されます。

② 大学入試の構造変化への適応

第二の要因は、大学入試改革の影響です。

2022年度以降、大学入試全体において「一般選抜」の割合は5割を切っており、代わりに総合型選抜や学校推薦型選抜(年内入試)が増加しています。

総合型選抜では、偏差値(学力)だけでなく「経験」「活動実績」「ストーリー」が重視されます。そのため、首都圏の進学校で画一的な勉強をするよりも、地方の特徴ある学校でオリジナリティのある探究活動や地域協働プロジェクトに取り組む方が、入試戦略上も有利に働くのではないかという「合理的な判断」をする保護者が増えています。

③ 都市部教育環境への閉塞感の解消

第三に、都市部特有の教育環境に対する疲弊があります。

少子化にもかかわらず、首都圏の中学・高校受験は過熱の一途を辿っており、SNS等での情報戦も含め、保護者・生徒共に疲弊感が漂っています。

「不登校」や「行き渋り」、あるいは「志望校に入ったがフィットしない」といった問題に直面した際、「その場所での競争」以外の生き方を模索する中で、自然豊かな地方で学ぶという選択肢が魅力的に映っています。

④ 非認知能力と他者協働への期待

第四に、これからの社会で求められる能力への意識です。

宮本氏は2018年のアンケート結果を提示し、「魅力化校(地方の特徴ある学校)」の生徒は、全国平均と比較して以下の項目で顕著に高い数値を示していることを紹介しました。

  • 自分とは異なる意見や価値観を尊重する

  • 主体的に取り組む

  • 失敗を恐れずに挑戦する

コロナ禍を経て、リモート学習の限界や孤立が露呈する中、多様な価値観を持つ他者(異文化)との共同生活や、地域社会という「群れ」の中での揉まれる経験を通じ、いわゆる「非認知能力」を育みたいと考える保護者層が増加しています。

【事例研究】「水族館部」が起こしたV字回復の奇跡

地域留学の成功モデルとして宮本氏が詳説したのが、愛媛県立長浜高校の事例です。同校は「日本で唯一、部活動として水族館を運営している学校」として知られています。

かつては閉校も危ぶまれる状況でしたが、「地域みらい留学」の枠組みに参加して以降、劇的なV字回復を遂げています。令和7年度の入学者実績を見ると、学年定員に近い61名の新入生のうち、25名が県外からの留学生でした 。全校生徒の募集において、実に約4割を県外生が占めるという驚異的な数字です。

徹底したPBL(課題解決型学習)の実践

長浜高校の強みは、単に「魚が好き」という興味を満たすだけでなく、その活動が高度なPBL(Project Based Learning)としてデザインされている点にあります。

今年度の新入生61名のうち50名が入部したという「水族館部」では、生徒は以下の班に分かれて活動しています。

  • 研究班: 水生生物の生態研究など、アカデミックな探究活動を行う。

  • 繁殖班: 生物の育成・繁殖に特化して取り組む。

  • イベント班: 月に1回開催される一般公開イベントの企画・運営を行う。

  • デザイン班: 集客のためのSNS運用や広報PRを担当する。

このように、生徒一人ひとりが自分の役割を持ち、組織運営に関わることで、自然と主体性や課題解決能力が養われる仕組みとなっています。

また、同校の商業部では、イベントに合わせてクッキーや「魚朱印(ぎょしゅいん:御朱印の魚バージョン)」を販売するなど、実践的なアントレプレナーシップ(起業家精神)教育も行われています。

実績が新たな生徒を呼ぶ「好循環」

こうした質の高い探究活動は、外部評価にも直結しています。

日本の高校生・高専生による科学技術コンテストの最高峰の一つ「JSEC(科学技術チャレンジ)」において、同校の生徒が最終選考に残るなどの実績を上げています 。 「コンテストでの活躍が報道され、それを見た『本気で研究したい子』が全国から集まる」という、理想的なリクルーティングのサイクルが確立されているのです。

地方校が「選ばれる」ための3つの条件

多くの事例や保護者の声を踏まえ、宮本氏は地方の学校が首都圏の保護者から選ばれるために不可欠な条件を3点提示しました。

① 特色の研磨(Uniqueness)

まず前提として、「そこでしか学べないこと」があるかどうかです。

単なる「自然体験」だけでは差別化が難しくなっています。長浜高校の水族館部のように、学校独自の資源を教育コンテンツとして磨き上げることが不可欠です。

② 情報の適切な公開(Disclosure)

宮本氏は、自身の娘の受験校選びの経験から、地方校の広報課題を指摘しました。

多くの地方校は、地元の中学生に向けた広報活動には熱心ですが、首都圏などの遠隔地に向けた情報発信が不足しています。 「Webサイトに寮の情報がない」「オープンスクールの案内が県外向けに届いていない」といった状況では、選択肢の土俵に上がることすらできません。ターゲットを全国に広げた意図的な広報戦略が求められます。

③ 住環境の安心担保(Living Support)

保護者にとって最大の懸念材料は、やはり「生活」です。

宮本氏は、「必ずしも完備された寮である必要はない」と述べつつも、食事の提供体制、管理スタッフの常駐、病気や怪我の際の対応フローなど、具体的な不安を解消する情報の提示が必要であると強調しました。

実際、宮本氏の娘が志望している学校は、進学後に寮から下宿へ移行する可能性があるそうですが、現地の見学を通して安心感を得たことで、その環境も含めて納得しているといいます。

私立高校の参入という新たな潮流

最後に宮本氏は、最新の動向として「私立高校の参入」について言及しました。

これまで公立高校の施策という印象が強かった「地域みらい留学」ですが、直近の合同説明会では、広島県の私立校(広島新庄高校など)や岐阜県の私立校などが参加しています。

2026年度からの私立高校授業料実質無償化を見据え、私立学校もまた、全国から生徒を募集する「広域通信」や「地域留学」のマーケットに活路を見出し始めています。

Q&Aセッション:保護者がリアルに見ている「選択の基準」

研究会後半では、参加者との質疑応答が行われました。ここでは、実際に宮本氏が保護者としてどのような基準で学校を選んできたのか、その核心に迫るやり取りを抜粋して紹介します。

Q. お子さんが地方の高校を第一志望にされた際、最終的な「決め手」は何だったのでしょうか?

宮本氏: 「競技環境の有無」です。 娘が取り組んでいるスポーツは特殊な設備を必要とするのですが、都心部では満足な練習環境を確保することが困難でした。一方で、地方にはその専用施設があり、競技に打ち込める環境が整っていました。 「偏差値の高い学校に行く」ことよりも、「自分がやりたいことに没頭できる環境(ファシリティ)があるか」を最優先した結果、自然と地方への進学という選択になりました。

Q. ご子息が進学された新設の高専(高等専門学校)については、どのような観点で選ばれたのですか?

宮本氏: 「投資規模と本気度」です。 息子はテクノロジー分野に関心があったのですが、学校選びの際には、その分野に対して学校側がどれだけリソース(予算や設備)を投じているかを重視しました。 最新の機材が揃っているか、生徒のやりたいことを実現させるためのバックアップ体制があるか。親としても本人としても、その「環境の質」が最大の魅力となり、進学を決断しました。

Q. 私立高校が「地域みらい留学」のようなプラットフォームに参加する動きについて、どう思われますか?

宮本氏: これまでは公立高校の施策というイメージでしたが、直近のイベントでは複数の私立高校の参加を確認しており、驚きとともに納得感もありました 。 少子化で生徒確保が厳しくなる中、私立学校であっても「地域留学」という枠組みを使って全国から生徒を募集しようという動きは、今後さらに加速するのではないでしょうか。建学の精神や特色ある教育を持つ私立こそ、ハマる層は全国にいるはずです。

終わりに 地理的ハンデを「武器」に変えるために

本セミナーを通じて浮き彫りになったのは、首都圏の保護者が抱く「教育観のドラスティックな変化」です。

かつて、地方の学校へ進学することは「都心の競争からのドロップアウト」と見なされることもありました。しかし現在は、「経済的合理性」「入試戦略上の優位性」「特化型の探究環境」「非認知能力の育成」という4つの論理に裏打ちされた、極めて前向きで積極的な「戦略的選択」へと変化しています。

宮本氏が紹介した長浜高校の事例が示すように、学校独自の「尖ったコンテンツ(探究・体験)」と、それを必要とする層に届ける「適切なデリバリー(広報)」が噛み合った時、地方であることはハンデではなく、むしろ強力な武器になります 。

「偏差値」という単一の物差しから、「経験値」という多様な物差しへ。 教育の評価軸が大きくシフトする今、地方の学校にはかつてないチャンスが到来しています。自校にはどのような「地域資源」があり、それをどう「探究の種」として磨き上げるか。その再定義こそが、全国から生徒を引き寄せる第一歩となるでしょう。

今回ご登壇いただいた「knockout」の活動はぜひ以下をご確認ください!

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